RESEARCH研究

プライマリ・ケアに関するさまざまなトピックの研究を行っています。
国際共同研究や、専攻医や医学生の研究支援も行います。

開発・公開
がんの既往歴・家族歴に基づいた遺伝性腫瘍のリスク評価ツール(JCRAS-PC)

プライマリ・ケア医を対象とした遺伝性腫瘍のウェブ版リスク評価ツール『JCRAS-PC』を開発・公開しました。

JCRAS-PCは、タブレット端末でも使いやすく効率的にリスク評価を行うことができます。
以下のような状況で、JCRAS-PCが有用です。
  • 比較的若い年齢で癌を発症している場合
  • ひとりの方が複数の癌を発症している場合
  • 2つある臓器(例:乳房)の両側に癌を発症している場合
  • 家系内に癌を発症した人が複数名いる場合
  • HBOCやLSに関連した癌がみられた場合
(乳癌・卵巣癌・腹膜癌・膵癌・前立腺癌・大腸癌・子宮体癌・胃癌・胆管癌など)
 
遺伝性腫瘍は、乳癌の5.7%、卵巣癌の17.8%、大腸癌の3.3%、子宮体癌の10.1%、膵癌の6.7%、前立腺癌の2.9%を占めるとされ、USPSTF(米国予防医療専門委員会)では、HBOCを示唆する既往歴・家族歴に対して簡易のリスク評価ツールを用いて評価することが推奨度Bとなっています(2025年3月の時点)。
■JCRAS-PCJapanese version of Cancr Risk Assessment System in Primary Care)とは?
  • JCRAS-PCは、遺伝性腫瘍のなかで最も頻度の高い(一般人口の300-500人にひとり)とされる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)とリンチ症候群(LS)に焦点を当て、癌の既往歴・家族歴が、遺伝カウンセリングまたは遺伝学的検査の適応基準を満たしているかを効率的に評価するツールです。
  • JCRAS-PCには、国内外のガイドラインに基づく基準項目から、日本の臨床現場や医療制度を考慮して精選された50項目が組み込まれています。JCRAS-PCは、プライマリ・ケアでの遺伝専門職への紹介判断に妥当性があることが示されています(”Development and validation of Japanese version of cancer risk assessment system in primary care (JCRAS-PC)” 第76回日本産科婦人科学会学術講演会 口演発表. 2024年4月. )。

 ■JCRAS-PCの主な特徴 
JCRAS-PCは以下のリソースが含まれます。
1.HBOCやLSの病的バリアント保有者に推奨される『がんサーベイランス表』
2.遺伝性腫瘍・遺伝診療のファクトシート
3.がんの遺伝性やJCRAS-PCの使用に関する説明文章例
4.臨床遺伝学・遺伝性腫瘍に関する学習リソース5選
5.遺伝子医療を実施している医療機関検索リンク
JCRAS-PC開発研究チーム
研究代表者
 鳴本敬一郎(浜松医科大学地域家庭医療学講座)
研究協力者
 岩泉守哉(浜松医科大学医学部付属病院 検査部/遺伝子診療部)
 小泉圭(浜松医科大学第一外科 乳腺外科)
 柴田綾子(淀川キリスト教病院 産婦人科)
 宮崎景(名古屋市立大学大学院医学研究科 総合診療医学・総合内科学)
 
JCRAS-PCは、科学研究費助成事業「プライマリケア遺伝診療の発展:がんリスク評価システムの開発と有用性の検証」(課題番号:22K17326)の助成を受けています。

論文
プライマリ・ケア医による産後メンタルヘルスケア:横断研究

Narumoto K, Endo M, Kaneko M, Iwata T, Inoue M. Japanese primary care physicians' postpartum mental health care: A cross‐sectional study. Journal of General and Family Medicine. 2024.

今日の周産期医療において、産後女性のメンタルヘルスケアは重要課題となっています。その一方で、産後一か月健診を超えて、産後女性を継続的に、そして包括的にケアしていくようなヘルスケアシステムは明確になっていません。そこで、プライマリ・ケア医を対象に計13領域から構成される産後ケアの実践についてアンケート調査をおこないました。本論文は、その中でも特に周産期メンタルヘルスケアに着目したデータ解析になります。プライマリ・ケア医339名の回答から、以下のことがわかりました。
  • 回答者が診察している患者の15%(中央値)は、メンタルヘルスに何らかの困難を抱えている
  • 回答者の69%は、うつ病・不安症のスクリーニングを日常診療でおこなっている
  • 回答者の76%は、日常診療のなかで産後女性(出産後1年以内)を診察する機会がある
  • 回答者の約半数(48%)は、産後メンタルヘルス事例に対応した経験があり、その場合は様々な専門職種やその他の地域資源と共同してケアを提供した
本研究の結果から、メンタルヘルスケアを提供しているプライマリ・ケア医は一定数おり、産後メンタルヘルスケア事例に対する窓口の一つとなるかもしれないことが示唆されました。

論文
認知症をもつ患者のマルチモビディティ(多疾患併存)管理に関するプライマリ・ケア医の視点と課題を日本とミシガン州で比較

Tsunawaki S,  Abe M, DeJonckheere M, Cigolle CT, Philips KK, Rubinstein EB, Matsuda M, Fetters MD, Inoue M. Primary care physicians' perspectives and challenges on managing multimorbidity for patients with dementia: a Japan–Michigan qualitative comparative study. BMC Primary Care. 2023;24(1)132.

複数の慢性疾患を持つ状態をマルチモビディティ(多疾患併存)と呼びます。プライマリ・ケアにおいて、複数の要因が絡み合うマルチモビディティの管理は複雑な仕事ですが、認知症をもつ患者の場合はさらに複雑度が上がります。
本研究では、日本と米国ミシガン州のプライマリ・ケア医各24名に対し、このような患者のケアに関する体験や課題意識についてインタビューで調査しました。日米で比較したところ、共通点として見られたのは、個別の疾患管理では治療目標や基準を緩やかにし、患者や家族の生活の質を重視する姿勢でした。特徴的な課題として、日本では「医療へのフリーアクセス」や「終末期に向けての患者の希望がわかりにくいこと」、米国では「患者が運転できなくなること」や「患者の経済力」の問題によって診療の継続が難しくなる状況、などが上がり、両国の医療システムや社会環境がマルチモビディティ管理の課題に影響していることがわかりました。

論文
プライマリ・ケア医療機関を訪れる女性の健康問題と援助要請意図に関する横断研究

Narumoto K, Miyazaki K, Inoue M, Kaneko M, Okada T, Sugimura M. Investigating women's health issues and help-seeking intentions in primary care in Japan: a cross-sectional study. BMC Primary Care. 2022;23(1):250.

本邦では、女性特有な健康問題に対するプライマリ・ケア医(総合診療医・家庭医)の役割や意義について女性の視点から明らかにした研究はこれまでありませんでした。そこで、診療所やクリニックを訪れる20歳~60歳の女性を対象に、女性特有の健康問題とそのことを相談しようとする気持ち(援助要請意図)について、質問紙による調査を行いました。260名の回答から、約半数(53%)の女性たちは少なくとも一つの健康問題を気にしており、その約7割(74%)は産婦人科へ定期的に通院していないことが明らかになりました。健康問題で最も多いのは婦人科がん検診と月経関連の問題であり、産婦人科へ定期通院されていない女性では、総合診療医・家庭医へ相談する気持ち(援助要請意図)の強い方たちが多い傾向にありました。この研究結果から、プライマリ・ケアへ訪れる女性の半数以上は、女性特有の健康問題を抱えており、総合診療医・家庭医が女性の健康問題に関して対話する機会をもつことの重要性が示唆されました。

論文
女性のプレコンセプションケアに関する知識と実践:混合研究法による調査結果

Shibata Y, Abe M, Narumoto K, Kaneko M, Tanahashi N, Fetters MD, Inoue M. Knowledge and practices of preconception care among rural Japanese women: Findings from a mixed methods investigation. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023.

プレコンセプションケア(妊娠前ケア)とは、「将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと」を指します。具体的には、葉酸摂取、禁酒、禁煙、体重・栄養管理、性行為感染症・子宮頸がん検査、風疹ワクチンなどがあります。
本研究では、妊娠可能年齢の女性の間で、プレコンセプションケアがどの程度浸透しているのかをインタビューと質問紙を用いる混合研究法(探索的順次デザイン)により調査しました。対象は、静岡県内のA町(人口2万人弱)に住む20~43歳の女性です。13名に実施したインタビューの結果をもとに質問紙を開発しました。質問紙に回答した232名の中で、妊娠の経験のない人では、98%がプレコンセプションケアのことを知らないと答え、妊娠経験のある人でも68%が知らないと答えていました。妊娠経験のある人に前回の妊娠前に実施していたことを詳しく尋ねました。禁煙、栄養など日常生活の中で取り組める項目に比べて、子宮頸がん検診など医療機関での検査が必要な項目の実施率は低いことがわかりました。プレコンセプションケアについて、女性がアクセスしやすい情報源を活用した具体的な情報提供が求められています。

論文
医学生の将来のワークライフバランスに対する認識:講義後のコメントを用いた質的研究

Matsui T, Inoue M. Perspectives of medical students on future work-life balance in Japan: A qualitative study using postlecture comments. Journal of General and Family Medicine 24(1) 3-8, 2022.

医学生を対象とした地域医療に関する講義の中で、医師のキャリアの一例として、執筆者の仕事のキャリアとライフサイクルを紹介した。講義後に学生が講義の感想や将来のワーク・ライフ・バランス(Work life balance: WLB)について記述した内容を質的に分析し、医学生の将来のWLBに対する考え方を探索した。男女ともにほとんどの学生がWLBは必須であると考えていたが、WLBに関連する要因は、性別役割分業や医師の職業イメージなど、従来の概念を反映したものであった。今回の結果から卒前の医学部でWLBの本質を認識させるなど、多角的な取り組みが必要であることがわかった。
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