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基礎配属の研究紹介(パーマカルチャーの体験プログラム)~興味と夢を研究に~

学生の活動
2024/3/29

こんにちは。医学科の杉山です。

今日は私が3年生の基礎配属のときに地域家庭医療学講座で行った研究について紹介します。パーマカルチャーと健康をテーマに研究を行いました。研究のタイトルは「パーマカルチャーの体験プログラムがポジティヴヘルスに及ぼす影響~参加者インタビューの質的分析~」です。
基礎配属では自分の興味のあるテーマに取り組むことができます。私がこの研究を思いついたのは、私の関心が「心身の健康・暮らし・人生・人間関係・環境の充実」の統合にあるからです。「心身の健康が大切である」ことは長い間学んできましたが、地域医療の存在を知ってから「なぜ人々は健康でいたいのか?」と考えるようになりました。個人の見解ですが、私は健康であることは各々がやりたいことや実現したいことを達成するための手段として必要なのではないかと考えます。私は患者に健康という手段を提供しながら、患者が目指す目標に共に歩むことができる医療を行いたいと考えます。
今回テーマにしたパーマカルチャーは様々な分野の知恵や技術を統合しながら、個人、コミュニティ、地域、地球の持続的な健康と充実を図る学問です。患者が目標を見失ったり、達成する手段に頓挫したりした時に、このパーマカルチャーの性質が解決の糸口になるかもしれないと考えました。
今回はそんな患者と人生の目標に向かって共に歩む医療を探索するための小さな一歩です。
 
では、研究結果を紹介します!

『パーマカルチャーの体験プログラムがポジティヴヘルスに及ぼす影響』
 ~参加者インタビューの質的分析~


パーマカルチャーとは、パーマネントとアグリカルチャーとカルチャーを合わせた言葉で、多様な分野の技術や考え方を組み合わせて人と自然が共に豊かになれる持続可能なライフデザインの実現を図る学問です。浜松市にはこのパーマカルチャーを実践しているPermaculture DesignLabという企業があり、パーマカルチャーを学ぶ様々なコースを開催しています。今回はこちらのPermaculture DesignLabさんが開催する「パーマカルチャーの体験プログラム」に参加した大学生を対象に、パーマカルチャーが参加者の総合的な健康観に与える影響について探索しました。今回はパーマカルチャーがライフデザインという人生やライフスタイルに焦点を当てる特徴に着目し、生きがいや暮らしの質などを含む健康のコンセプトであるポジティヴヘルスを総合的な健康観の評価ツールとして用いました。ポジティヴヘルスとは、健康を損なうような要因に出くわしたとしても、それを乗り越えていくことができる能力こそが健康なのではないかという健康の新しいコンセプトです。また、ポジティヴヘルスは、身体の状態、心の状態、生きがい、暮らしの質、社会とのつながり、日常機能の6項目で健康を考えていきます。

目的
パーマカルチャーの体験プログラムがポジティヴヘルスにどのような影響が見られるのかについて探索しました。
方法
大学生を対象として、本研究の参加者を募集し実施しました。被験者はPermaculture DesignLabが主催するパーマカルチャーの体験プログラムに参加しました。体験プログラムは全3回構成で、1回目と2回目はオンラインで行い、3回目はパーマカルチャーのフィールドで行われました。体験プログラム終了後にポジティヴヘルスに関するインタビューを行いました。インタビュー内の「パーマカルチャーの体験プログラムを受けてポジティヴヘルスの各項目にどのような影響を受けたか」についての解答を質的に分析しました。
結果
参加者は計8名(男性6名、女性2名)、属性は医学生7名、看護学生1名でした。各参加者から得られた「パーマカルチャーの体験プログラムを受けてポジティヴヘルスの各項目にどのような影響を受けたか」に対する回答をポジティヴヘルスの6項目について分析した結果、51のテーマ(身体の状態:6、心の状態:13、生きがい:7、暮らしの質:8、社会とのつながり:7、日常機能:10)が抽出されました。抽出されたテーマはポジティヴヘルスの全ての項目において、経験・関心・実践・目標のサブカテゴリーに分けられることがわかりました。参加者からは、『(枯れそうな木が)根元からまた新しい幹を伸ばし、方向転換をして、また力強く生きているみたいな、(中略)自分たちの人生観にも結構言えることがあるんじゃないかな』、『根幹をしっかり持っていれば(中略)挫折した機会があっても、その言葉を思い出してちょっと頑張ってみようかなって思いました。』などのコメントがあり、行動変容のきっかけにつながっていることがわかりました。
考察
結果より、パーマカルチャーはポジティヴヘルスの6項目全てにおいて行動変容を促すきっかけとなると考えられます。このことは、パーマカルチャーの自然に目を向ける、自分と違う考え方・感じ方をもつ人と交流する、自分とは違う生活様式の体験などパーマカルチャーの多様性が関与しているためだと考えられます。
以下、研究を行ってみての感想です。
今回はパーマカルチャーとポジティヴヘルスという、どちらも広い範囲を取り使い説明が難しいにも関わらず、世間ではなじみが浅い分野を取り上げたことで、文献も少なくかなり苦労しました。しかし、臨床研究の結果、パーマカルチャーの「多様性」という性質が浮かびあがってきた時、曇り空が晴天の空になったかのような「面白い!」という感情が込み上げてきました。苦労の中にこそある楽しさ、自分の興味のままに探求できる環境をいただけたこの期間はとても良い経験になりました。
ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。

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